会計士が解説!上場準備会社(IPO)の上場の流れについて

クーちゃん

「申請期(N期)」「直前期(N-1期)」「直前々期(N-2期)」って何?
それぞれの期の意味合いや実施しなければいけないことは?
申請期の具体的なスケジュールは?

今回はこのような疑問に答えれるように解説します。

こんにちわ。大阪の会計士/税理士の唐木です。

「株式会社」は、「資金調達」や「ブランド価値上昇」を目的に株式を広く「一般の投資家」に買い付けできるようにするため、「株式上場」を目指すことがあります。

私自身、「上場準備会社の監査」に従事し、関与した会社が上場した経験があります。

今回は、「株式上場」のうち「監査法人」に関係することについて、解説します。

「上場準備会社の監査」を初めて経験する方や、ストック・オプションの獲得等を目的に「上場準備会社に入社された方」の参考になると思いますので、ぜひ読んでみてください。

目次

「申請期(N期)」「直前期(N-1期)」「直前々期(N-2期)」とは

「上場準備会社」が「上場する期」のことを「申請期(N期)」その1期前のことを「直前期(N-1期)」さらにその一期前のことを「直前々期(N-2期)」といいます。

大まかに各期で実施すべきことを一覧にすると以下の通りです。

「監査関係

「上場準備会社」は、「証券取引所の規則」である「有価証券上場規程」に基づき、「直前々期(N-2期)」からの2年分の監査を受ける必要があります。

そのため、「監査法人の監査」を「直前々期(N-2期)」から受けることになります。

また、「直前々期(N-2期)」から前の期は「監査法人」は監査していないため、期首の貸借対照表(BS)」の妥当性を確かめるため、「期首残高の監査」を実施します。

「期首のBS」が間違えていると必然的に「それ以降の財務諸表」を間違えることになるため、「BS項目の監査」を実施します。

「期首残高監査」を実施した時には、「多くの検出事項」があることが通常です。
なぜなら今まで「会計監査」を受けたことがなく、「中小企業のような会計処理」をしている「会社」が多いためです。そのため、誤りを見過ごさないようにするために「あるべき姿」が見えている「経験ある会計士」が担当することが重要と言えます。
例えば、「税効果会計」「引当金」「組織再編」等の「複雑な決算整理項目」ではエラーがあることが多いです。
また、「銀行」や「債権債務を有する取引先」に対する「残高確認」も実施しますので、このタイミングで本来「BS」に計上しなればならないが「オフバランス処理」されていたものや、「売上計上処理」「仕入計上処理」の誤り等も発見し、修正をお願いすることがあります。

「レビュー関係

「直前期(N-1期)」から「上場準備会社」が「四半期報告書」を適時に作成し、「監査法人のレビュー」を受けることができる体制であるのかを確認するため、「会社」による「四半期レビュー報告書のプレ作成」「監査法人」による「プレレビュー」を実施します。

このタイミングでは「レビュー意見」は必要ありませんが、「上場準備会社」を担当する「主幹事証券」から実施するように「会社」に要請され、「会社」から「監査法人」に実施してほしいと言われることになります。

「申請期(N期)」においては、「上場承認までの期」の「四半期報告書」に「レビュー意見」が必要になりますので、必ず「レビュー」が必要になります。

具体的には、「3月決算会社」が「12月に上場」しようとする場合、「第1四半期」である6月、「第2四半期」である9月の月末から45日を経過しているため、「第1四半期の四半期報告書」と「第2四半期の四半期報告書」の「レビュー意見」が必要になります。

「第3四半期」である12月の月末から45日は、経過していませんので、「第3四半期の四半期報告書」は、上場後に提出することになります。

「管理体制関係

「上場準備会社」が上場するにあたっては、「上場会社並の管理体制」を構築する必要があります。

初めに「監査を担当する監査法人」が、「直前々期(N-2期)」の前に「会社の管理体制」の問題点を洗い出すために「短期調査(ショートレビューとも呼ばれます。)」を実施します。項目は多岐にわたり「各監査法人所定のチェックリスト」により行われることが通常です。

「短期調査」により課題を洗い出した後、「直前々期(N-2期)」で「管理体制を改善」し、「直前期(N-1期)」で「管理体制の安定運用」を目指し、「申請期(N期)」で「上場企業並の管理体制」を運用することになります。

「管理体制」と言っても影響する箇所は多岐にわたり、例えば以下のような箇所となります。

  • 「規程関係」
    「上場会社」は、長期にわたって継続して存続することが求められるため、「属人的な対応」とならないようにするために、「規定やマニュアル」の「整備・運用」が求められます。
  • 「組織関係」
    「組織図」が作成され、組織がその通りになっている必要があります。また、「経理担当者」と「財務担当者」の「分離」や「牽制体制の構築」、「社長直属の部門」で「内部監査を実施する部門」が存在する必要があります。
    「労務管理体制」や「IT管理体制」があり「情報漏洩対策」が十分であるか、「不正がおこらない体制」となっているか等、様々な項目があります。
  • 「取引関係」
    「取引先」が「反社会的勢力」ではないか、「関連当事者取引」で不適切なものはないか等を確認する体制を「整備・運用」する必要があります。
    「関連当事者取引」は、「会社に利害関係」のある「役員」や「100%の親会社、子会社等」との取引であり、「特別な関係」があるため、「事業合理性のない取引」が行われることがあるので、そのような「上場会社」となった場合に「一般の投資家である株主」にとって「不利な取引」がないかを確認できる体制の「整備・運用」が必要となります。
  • 「JSOX関係」
    上場後、3年間は、規模の大きい「資本金100億円以上又は負債1,000億円」の会社を除き、「内部統制監査の免除」を受けることが可能です。「内部統制監査の成果物」は、「内部統制監査報告書」となります。
    しかしながら、「会社」としては、「内部統制の整備・運用」を実施し、「内部統制報告書」を提出する必要があります。このため、「社内の内部監査人」による「内部統制の整備・運用」を実施する必要があります。

レアなケースではありますが、規模があまり大きくなくて余裕がない会社においては、社長直属の部門として内部監査室を置かずに、事業部門長が相互にお互いの活動を監査するクロス監査の方式を採用して、上場する会社も存在します。

「申請期(N期)」の「スケジュール」

「直前期(N-1期)」「直前々期(N-2期)」においては、「通常の監査」をしつつ、「会社の管理体制の改善」が適切にされているかを確認することになります。

「申請期(N期)」においても、「通常の金商法監査」と実施することは大きく変わりませんが、「監査意見日のスケジュールの管理」や「必要書類の管理(監査報告書の必要枚数の管理も重要です。)」等に注意をしつつ、「上場時特有の業務」を実施する必要があります。

「申請期(N期)」における、「大まかなスケジュール」は以下のようになります。

まず、「会社」は「上場申請日の約半年前」に「主幹事証券の引受審査」を受け、それが完了したら、「上場する取引所」に「上場の申請」を行います。

「上場する取引所」は、「東京証券取引所(東証)」「名古屋証券取引所」「福岡証券取引所」「札幌証券取引所」の4つが存在します。
大半は「東証」での上場になります。

以前はこのタイミングで「新規上場申請のための有価証券報告書」通称「Ⅰの部」及び「新規上場申請のための四半期報告書」に対する「意見表明」が必要でしたが、2023年4月1日以降に上場申請する場合は、上場承認時のみ必要に改められました。

その後、「上場申請後」3か月程度にわたって、「取引所による上場審査」が行われます。「取引所の審査」が無事に完了し、「上場承認」がされるタイミングで、「Ⅰの部」及び「新規上場申請のための四半期報告書」、さらに「有価証券届出書」の「意見表明」が必要になります。

こちらの「Ⅰの部」及び「新規上場申請のための四半期報告書」並びに「有価証券届出書」は、「一般の投資家」に縦覧することを目的に作成されます。

「Ⅰの部」及び「新規上場申請のための四半期報告書」は証券取引所の規則である有価証券上場規程に基づき作成され、「金融商品取引法」いわゆる「金商法」に準じた意見表明が必要になるの対し、「有価証券届出書」は「金商法」に基づく意見表明であり、「取引所のルール」に基づくものか、「法律に基づくものかという違いがあります。

さらにこのタイミングで「証券会社からの要望」で「コンフォートレターの1stを作成することになります。

「コンフォートレターは、「証券会社からの要望に従って調査した結果をまとめた「調査報告書であり、「監査・保証実務委員会報告第68号「監査人から引受事務幹事会社への書簡について」」に従い作成されるものになります。

「証券会社」から調査を依頼される内容は、「有価証券届出書」及び「目論見書」のうち「意見を表明しない部分の数字情報の資料間の整合性の確認」、「株主総会・取締役会等の議事録の閲覧、「財務数字の事後変動の確認になります。

「監査対象外の数字」が妥当であるか、「有価証券届出書」に記載されている「決算情報」から「上場日」は数か月離れていることから、この間に「大きな事象」がないかを確認することが目的になります。

「証券会社からの調査依頼」に対して、「監査法人」が受嘱できるかどうかという問題があるため、「証券会社」との「コミュニケーション」が重要になり、「監査法人内での受嘱審査」にもそれなりに時間がかかることが想定されるため、余裕をもって対応する必要があります。

特に「意見表明をしない数字情報の資料間の整合性の確認」は、「内部統制」に依拠して資料が作成されていることが前提となりますので、全て確認できるわけではありませんし、「監査」をしていない期間の数字については、対象とすることができない等のルールが存在します。

このタイミングではあくまで「上場承認のタイミング」であるため、この時点で実施できるものを「調査報告書」にまとめ、「コンフォートレターの1st」を作成します。

その後晴れて「上場承認」され、「上場日」となると、「上場日付近」で「コンフォートレターのFinal」を作成し、「証券会社」に提出します。

1stから追加になるのは、基本的に「直前月までの財務数字の変動の確認」「直近の議事録の閲覧」になります。

まとめ

上場準備会社の上場の流れ
  • 「上場する期」のことを「申請期(N期)」その1期前のことを「直前期(N-1期)」さらにその一期前のことを「直前々期(N-2期)」という
  • 監査法人は「直前々期(N-2期)」から監査を行う
  • 「直前々期(N-2期)」に期首残高監査や短期調査を行い、会社の会計処理の誤りや管理体制上の改善点を指摘し、改善する
  • その後は、管理体制の改善確認、四半期レビューの実施等を行う
  • 「申請期(N期)」は必要な書類が多くスケジュール管理を徹底することが重要

終わりに

今回は、「上場準備会社」の「上場の流れ」について解説しました。

「本当に上場する上場準備会社」を担当すると、初めは全然できていなかったことが、会社に優秀な人がどんどん増えて、できるようになっていく姿を見ることができます。

大変なことも多いですが、「会社の管理体制」の改善を支えることが、「自分の経験」にもなります。

最後までお読みいただきありがとうございました。

それでは!

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