会計士が解説!「売上の計上タイミング」と「証票書類」について

クーちゃん

売上を計上する日の例は?
売上に関する「証票書類」ってどんなものがあるの?
それぞれの「証票書類」の内容は?

今回はこのような疑問に答えれるようにわかりやすく解説します。

こんにちわ。大阪の会計士/税理士の唐木です。

監査上、財務諸表に計上された金額に問題がないという心象を得るために、会計記録の証拠を示す書類である、「証票書類」を確認することになります。

「証票書類」は「エビデンス」とも呼ばれ、会社の会計記録の計上日や金額の妥当性を検証するうえで重要な書類となります。

今回はそんな「証票書類」の中でも特に売上関係で出てくるものについてわかりやすく解説します。

経理ではなく、営業等をされていて、会計にあまり馴染みがないものの「証票書類」を取り扱う方や、経理や監査をしたばかりの方に役立つ情報になっていますので、ぜひ読んでみてください。

なお、前提として、「収益認識基準」が2022年3月期から新たに導入されてからは、従前のように会社が実態判断をして、比較的自由に売上計上日を選べるものではなく、個々の契約毎にどの時点で売上計上をすべきかを「収益認識基準」に照らして、判断することとなっています。

「収益認識基準」はすべての会社で適用可能であり、会計監査を受ける必要がある上場会社、会社法監査適用会社、上場準備会社においては、適用が必須となりますが、それ以外の会社においては、適用の煩雑性から適用されるケースは極めて限定的となっています。

目次

売上を計上する日は、主に「出荷日」「納品日」「検収日」「役務提供日」「契約期間」

売上を計上する日は、主に「物品の販売」であれば、「出荷日」「納品日」「検収日」、「役務の提供」であれば、「役務提供日」「契約期間」となります。

「出荷日」は、商品を発送した日、「納品日」は、商品が取引先に到着し、納品した日、「検収日」は、商品が取引先に到着し、その商品を取引先が検収した日に売上計上を行います。

「出荷日」「納品日」「検収日」の順番に売上計上のタイミングが早くなります。

「出荷日」「納品日」が採用されるのは、基本的に汎用品であり壊れにくいものであり、「検収日」が採用されるものは、基本的には商品到着時に取引先が意図していたように使用できない可能性があるものになります。

例えば、「出荷日」「納品日」が採用されるのは、一般的な部品等であり、「検収日」が採用されるのは、取引先毎に使用が異なる特別仕様の部品等になります。

2022年3月期に「収益認識基準」が適用される前は、「実現主義」で売上を計上するものとして、①役務提供を行っていること②対価が成立していることの2要件を満たした時に収益計上するという凄くざっくりしたものでした。
「収益認識基準」が適用された後は収益認識の考え方がかなり複雑になっています。
「出荷基準」については、頼まれた物を発送したという段階で、まだ取引先に商品が到着しておらず、郵便事故が起こる可能性や違う商品を送ってしまっており納品されない可能性がある等、未だ履行義務を果たしていると言える状況ではないため、基本的に収益認識タイミングとしては認められていません。
しかしながら「出荷基準」については、日本企業の実務慣行で「出荷基準」が多く適用されてきたことを背景に、一定の要件を満たした場合に特例的なポジションで適用が認められています。

「役務提供日」は、役務を提供した日、「契約期間」は、契約期間にわたって売上計上をします。

「役務提供日」で売上計上をするのは、例えば、人材紹介業で紹介した人材が取引先に入社した日に売上計上する場合等です。

一方「契約期間」で売上計上をするのは、例えば、ビルメンテナンス業で取引先のビルの警備や清掃を行うときに、契約で定めた期間で清掃する場合等です。

売上計上が妥当であることを確かめるための「証票書類」

売上計上が妥当であることを確かめる「証票書類」は様々なものがありますが、ここでは代表的なものを解説します。

「出荷伝票「出荷証明書

出荷したことを示す「証票書類」となります。

これにより出荷した日、出荷した物の内容等を把握することができます。

「受領書「納品書

納品したことを示す「証票書類」となります。

これにより納品した日、納品した物の内容等を把握することができます。

「検収書「検収結果通知書

検収したことを示す「証票書類」となります。

これにより検収した日、検収した物の内容等を把握することができます。

「注文書」「発注書」「出荷指示書」

これらの書類は、基本契約や見積書で取引の内容について、合意を取った後に、具体的な取引内容を確定するために「買主側」から「売主側」に注文を依頼するものになります。

こちらは「買主側」から提供される「外部証憑」となるため、売上の証票書類の一部として利用されることがあります。

基本的には、これらの書類は発注段階で提供されるものであり、その後商品を納入する等で完了したことを示す「証票書類」が別途存在するのが通常であるため、これらの書類は補完的に利用されます。

契約書

「契約書」は、契約した内容を確かめることができる「証票書類」となります。

これにより、契約の内容を把握でき、会社がどのような提供義務を負って、どのような対価を得ることができるのかを把握することができます。

「収益認識基準」導入後は、基本的に「契約書」を確認し、「収益認識基準」の5つのSTEPへの当てはめを実施して、売上計上時期をいつとするのが正しいのかを判断することになります。

覚書

「覚書」は、「契約書」の内容を変更したり追加する際に、その内容について合意する時に使用される「証票書類」となります。

「基本契約書」として、取引の全体的な内容として、例えば、「支払条件」や「反社条項」等を契約しておき、個別具体的な内容については、「覚書」でその都度締結するということがあったり、役務提供をすることが確定しているものの、金額で折り合いがつかないときに、先に「契約書」で合意しておき、金額確定後に「覚書」で金額部分を締結するといった使い方がされます。

いずれの「証票書類」についても、被監査会社ではなく取引先が発行したものであることを確かめることが重要です。なぜなら「監査証拠」としては、内部で作成された「証票書類」より、外部で作成された「証票書類」のほうが証明力が高いためです。
「外部証憑」であることを確かめる方法としては、例えば、「出荷関係」のものであれば、FAXの番号を確かめる、「納品・検収関係」のものであれば、取引先の担当者が確認した印鑑を確かめる、「契約書」「覚書」であれば、代表者印が押印されていることを確かめる等が挙げられます。

その他の「証票書類」について

その他の「証票書類」としては以下のようなものがあります。

「請求書

「請求書」は、物品等を販売した取引先に対して、販売したものの「内容」「支払金額」「支払時期」等をまとめたものになります。

売上の「証票書類」とすると、それは「被監査会社」が販売した取引先に対して作成した「請求書」であり、「請求書控え」となることから、「内部証票」となり基本的には証明力が著しく低いですが、例えば、取引先に業務委託をして経費を支払っている場合の「請求書」については「外部証憑」となるため、「証票書類」として利用することがあります。

「入出金明細

「入出金明細」は、銀行のインターネットバンキングから出力できたり、通帳により確認することができ、銀行口座内の入金及び出金の内容を示すものになります。

こちらは「各種証票書類」をさらに補完するために確認するものになり、特にリスクが高い「特別な検討を必要とするリスク」としている項目の「証票書類」を確認する際に追加で依頼することがあります。

「見積書

「見積書」は、契約を締結する前に、もし契約をした場合に提供する内容や請求する金額をまとめたものになります。

基本的には、「見積書」を提示したタイミングでは契約そのものが、未確定の状況であり、「見積書」で提示した内容と最終的に請求したものとでは、内容が変わることがありますので、あまり「証票書類」として利用することはありません。

「領収書

「領収書」は、利用料金を支払ったことを示す「証票書類」となります。

「領収書」は、普段のお買い物でも登場することがあるので、馴染みがあると思います。

「売主側」が「買主側」に渡すものであるため、「請求書」同様こちらも売上の証票とすると「領収書控え」となり「内部証票」となってしまうので利用することはほとんどありませんが、経費の証票としては、利用されることがあります。

よくあるのは駐車場代とかですね。

まとめ

売上の計上タイミングと証票書類
  • 売上を計上する日は、主に「出荷日」「納品日」「検収日」「役務提供日」「契約期間」
  • 売上計上の妥当性を確かめる証票書類としては、出荷したことを示す「出荷伝票」「出荷証明書」、納品したことを示す「受領書」「納品書」、検収したことを示す「検収書」「検収結果通知書」、契約内容が確認できる「契約書」等がある
  • 収益認識基準導入会社に当たっては、会社の裁量で売上計上日を決定することはできず、収益認識基準に当てはめて決定する必要がある

終わりに

今回は、「売上の一般的な計上時期」や「証票書類」について解説しました。

「証票書類」は様々なものがありますが、どういったものでどういった特性があるのかというのをざっくりでも頭にいれておくと、経理や監査を実務でするときに役に立つと思います。

会計士や簿記の受験勉強で出てくるものではありませんので、実務に携わりながら覚えていくと良いと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。

それでは!

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