会計士が解説!監査手続の立会って何?

クーちゃん

実地棚卸・立会の目的は?
実地棚卸ってどんなやり方があるの?
立会の流れは?

今回はこのような疑問に答えれるように解説します。

こんにちは。大阪の会計士/税理士の唐木です。

伝統的な監査手続として立会があります。立会は、会社が実施している在庫の実地棚卸に監査人が直接赴き会社の棚卸状況の確認やテストカウントを実施して、立会日時点の在庫数量に問題がないことを確かめる手続です。

今回は、実地棚卸・立会について解説します。

目次

実地棚卸・立会の目的・必要性

実地棚卸は、会社が実際の在庫数量が在庫データと整合していることを確認することを目的に行われます。
在庫データは、商品の入出庫記録を基に生成されていることから、そもそもの入出庫の記録を誤ることや、商品を紛失すること等で実際の数量と在庫データの数量が合わなくなるので、定期的に実際の数量を実地棚卸により確認し、在庫データを補正する必要があります。

実地棚卸は会社が実施するもので、実地棚卸を監査人が適切に実施していることを確かめる手続が立会ということになります。

会社の商品の紛失の原因としては、単なる紛失の他、従業員等が不正に商品を盗んで、メルカリ等を使って販売する等が考えられるため、実地棚卸は不正を発見する観点からも必要です。商品の性質が転売しやすいものや高価なものであれば、なお不正リスクは高まると言えます。

立会はあくまで、在庫数量の正確性を確かめる手続となりますので、それとは別に在庫の評価、単価の検証を実施する必要があります。

在庫=在庫単価×在庫数量で計算できこれらの検証に加え、傷んでいる棚卸資産や販売期間までが長い不良在庫がないかを確かめる等、評価の妥当性を別途検証します。

立会時においては不良在庫かどうかはぱっとわからないかもしれませんが、商品に大きな傷があるもの等は立会の中である程度わかるので、在庫評価の検証の観点も意識して立会を実施することが重要です。

実地棚卸・立会が必要な会社

ビジネスモデル上、在庫を必要とする会社においては、在庫の重要性が高くなることから、基本的には、立会を実施することになります。例えば、スーパーや服を取り扱っているアパレル会社、またそれらに商品を卸す卸売を営んでいる会社、製品を製造しそれを販売している製造業等は通常実地棚卸を実施しているので立会を実施することになります。

一方、立会を実施しない会社としては、物品の販売等で在庫を保有する会社ではなく、役務を提供するビジネスモデルの会社になります。例えば、清掃業、コンサル等が挙げられます。

実地棚卸・立会は必ずしも期末日ではない

立会については、期末日時点で実施する会社もありますが、期末日前に実施する会社もあります。実地棚卸は在庫数が多ければ多いほど手間のかかるものであり、準備とその実施に相当時間がかかることから、決算業務等が偏る期末日に実施するのが困難な会社があります。また、小売店の場合には、期末日が営業日でお客さんが来るため実地棚卸ができないので、期末日前の最終の休日に実施するようなこともあります。

私も経験がありますが、24時間営業の場合等、お客さんが来ている状況で立会をするようなケースもあります。

期末日に実施しない場合は、立会実施日から期末日までの在庫の動きが異常でないか等を確かめてロールフォワード手続を別途実施する必要があるので、監査上は期末日時点で実施するほうが手続きとしては楽になります。

ロールフォワード手続については、こちらで解説してますので、ぜひ併せて読んでみてください。

実地棚卸の方法(タグ方式・リスト方式)

実地棚卸の方法としては、大きくタグ方式とリスト方式の二つに分かれます。それぞれ特徴がありますので、内容とメリット・デメリットを解説します。なお、タグ方式は棚札方式とも呼ばれます。

タグ方式

内容

棚卸資産確認の都度、実際にカウントした数量を記載したタグを棚卸資産に貼り付けます。タグは切り離すことができるので、タグを棚卸資産に貼り終えた後に、タグを切り離し回収します。

タグ回収時にタグが貼られていない棚卸資産がないかを確認します。

すべてのタグ回収後、連番でタグがもれなく回収・記載されていること、未使用分や使用したものの書損じたタグについても適切に処理されていることを確かめます。

例えば、タグが連番となっていなければタグの回収漏れを示しており、タグが未記入となっているものがあれば実地棚卸漏れを示すことになり、これをタグ・コントロールといいます。

メリット

タグ貼り付け後、保管場所にある全ての棚卸資産にタグがあることを確認するので、網羅的に実地棚卸がされていることが確認できます。

デメリット

連番の棚札を準備する必要があること、回収後連番となっており、棚札が適切に使用され、回収されていることを確かめるタグ・コントロールを実施する必要があるため時間がかかります。

リスト方式

内容

在庫管理システムから出力したリストと棚卸資産の一致を確かめる方法です。在庫管理システムから出力したリストは、会社の日々の入出庫履歴が反映されたものであることから、会社にとって理論上の在庫を表します。

メリット

リストと棚卸資産を比べて、直接確かめるだけなので手間が少ないです。

デメリット

リストに記載されている棚卸資産しかカウントの対象とならないため、棚卸資産が網羅的にカウントされない恐れがあります。網羅的にカウントされない場合、帳簿外の在庫が存在することになります。

実地棚卸は毎年ないし、大きい会社では毎月循環で実施されることもあるので、手間のかかるタグ方式ではなく、リスト方式を採用している会社が大半かと思います。また、感覚的にタグ方式よりもリスト方式の方がわかりやすく従業員の理解が得られやすいのもリスト方式ではないでしょうか。

今までの経験上も多くはリスト方式といったところです。
立会は倉庫等が地方にあることで、出張になるケースが多いので、タグ方式は立会終了まで時間がかかるので、リスト方式のほうが助かる面はあります。

立会の流れ

立会は、監査法人に入ってから2、3年目になると一人で行くこともあります。また、普段担当している会社であれば、扱っている商材等も把握しているのでイメージも付きますが、立会の時期が同時期になることもあり、全く知らない会社の立会に急遽アサインされることもあります。

基本的には、どのような会社であっても立会の流れは大きく変わりません。

立会の流れはおおまかには以下のようになります。

STEP1・2は事前準備、それ以降は立会日の流れになります。

STEP
立会場所の選定

初めに棚卸する場所を決定します。商品の保管場所が複数の場合には、監査人が重要性や過年度立会を実施しているか等を基に立会の場所を選定します。通常は、在庫を多く保有するところや過年度にエラーがあった場所、しばらく訪問していない場所をメインに選定することになります。本社しかなくそこにしか製造工場及び在庫の保管場所がないようなパターンであればこの工程は不要です。

STEP
棚卸実施要領、スケジュール、ロケーション図等の事前入手

立会場所が決まれば、それをクライアントにお伝えし、棚卸の実施手順等を定めた棚卸実施要領、立会を含めた実地棚卸のスケジュール、当日お伺いする立会場所のロケーション図を事前に入手しておきます。

STEP
立会前のミーティング

当日、立会場所に到着後、立会前に担当者間の挨拶、進捗状況の確認、実地棚卸の概況確認、実施したいこと等を共有するためにミーティングを実施することが通常です。

毎年同じ担当者が立会を実施している場合は省略することもありますが、普段やり取りをしない現場責任者とやり取りをすることになるため、立会時に初対面の方がいらっしゃることが多いです。

通常実地棚卸は当然在庫の量にもよりますが、1日作業になることもあるので、午後から伺う等途中から監査人が合流することがあります。

各監査法人所定の立会のチェックリストがあるので、それに基づき実地棚卸の概況を確認します。前年も立会していれば、前年からの変更点を中心に確認することになります。

立会時には監査人がテストカウントを実施することが求められますので、どのように実施するかをこのタイミングで伝えておきます。監査法人のポリシーで異なるところですが、通常25件程度をテストカウントで、監査人自らが現物の数量を数えて、会社が実施した実地棚卸の結果との一致を確かめることになります。

STEP
ロケーション図との整合性の確認・現場の視察

まずは、事前に入手したロケーション図と実地棚卸をしている棚の管理番号が整合しているか等を確かめます。ロケーション図と棚番号等が整合していない場合、実地棚卸が網羅的にされていない可能性があります。

実地棚卸を実施している様子を観察します。この際には、あらかじめ入手した実地棚卸要領に記載の内容を守って実地棚卸をしているか確認します。例えば、2人1組で実施するとされているにも関わらず、1人で実施している場合等は、会社が定めたマニュアル通りに実地棚卸がされていないことになります。

これらはテストカウントと同時並行で実施することもあります。

普段監査の中ではあまり接しない現場責任者とコミュニケーションをとれるいい機会になります。今までの経験上特に社歴が長い方が担当者であった場合、会社のことが好きな方が多いです。そのような場合には、積極的にクライアントの商品の特性や最近の売れ筋商品等を質問することで色々なことを聞けるチャンスでもあります。監査法人で勤務する大きなメリットであるいろんな会社を知ることができるというものをより活かせる場面でもあるので積極的に気になったことを聞いてみましょう。

STEP
テストカウントの実施

監査人自らが棚卸資産の数量を数えて、会社がカウントした数量に問題がないことを確かめます。

この際は出来る限りスムーズにテストカウントを実施するのが望ましいです。棚卸資産の数が多いアイテムを扱う会社であれば、テストカウント時に電卓を持っていくとスムーズです。また、最近は自動倉庫を採用しているケースがあるので、そのようなロケーションを確認する際には、初めに確認したいアイテムをピックして担当者の方に伝えておきます。自動倉庫は取り出すのに時間がかかるので、先に確認したいアイテムを伝えておくとスムーズにテストカウントができます。

この際エラーを検出した場合には、すぐに上の役職の現場責任者等に連絡をして指示を仰ぐのが望ましいです。もしエラーを検出した場合には、25件から42件に実施件数が増加し、その後さらにエラーを検出した場合にはさらに検証件数が増加することになりますが、最悪の場合実地棚卸のやり直しを含めて考える必要があります。

私自身エラーが多く発生したためにクライアントに実地棚卸をやり直させたことが一度あります。

サンプル数を25件とするのは、統計学の考え方を用いた場合、90%の信頼性を得るためには25件中1件もエラーがない必要があるという考え方を基にしています。また、エラーがあった場合、42件というのは42件中1件エラーがあった場合には90%の信頼性を得られるという考え方を踏襲しているものです。この考え方は、内部統制監査にも用いられています。

STEP
タグ方式の場合タグコントロールの実施

タグ方式の場合は、会社が実施したタグコントロールの結果を確認します。前述の通り、タグが全て連番で網羅的に回収されているか、全てのタグでカウントがされているか、書損じの処理は適切か等を確認します。タグコントロールは当日中に実施することになることから、会社がタグの回収を終えるのを待って、監査人も確認してようやく完了することになります。在庫数が多いほど、時間がかかり、なかなかに大変な作業になります。

STEP
差異調整結果の入手・確認

実地棚卸の結果、在庫数が理論上の数字と実際の有り高と異なるアイテムがあるので、差異のあったアイテムをまとめたリストを入手します。

会社はそのリストを基にそれらについて、再度数えなおしを実施して確かに不一致となっていることを確かめます。

再確認をしてなお差異のあったアイテムに対して、会社はなぜ差異となったのかを特定する必要があるので、入出庫の記録を追いかける等をして検証を実施します。

これらの検証は後日にまたがることもあります。

STEP
講評の実施

立会の全ての工程が終わったタイミングで講評を実施します。お偉い人に囲まれて実施することもあるので、入って2~3年目の年次で一人だとそれなりにプレッシャーがあります。この場で実施結果や発見した事項をお伝えすることになります。

まとめ

立会
  • 実地棚卸は会社の在庫数量を確定するために必要であり、立会は実地棚卸が適切にされている心象を監査人が得るために必要
  • 実地棚卸及び立会が必要な会社は、多額の在庫を保有するビジネスモデルの会社
  • 実地棚卸及び立会は、必ずしも期末日ではなく、決算の締めを考慮し、期末日以前に実施することがある
  • 実地棚卸の方法は、タグを連番で管理し、在庫に張り付けて回収するタグ方式と、在庫システムよりデータ出力をしたリストを基に実施するリスト方式がある
  • 立会の流れ
    ①立会場所の選定
    ②棚卸実施要領、スケジュール、ロケーション図等の事前入手
    ③立会前のミーティング
    ④ロケーション図との整合性の確認・現場の視察
    ⑤テストカウントの実施
    ⑥タグ方式の場合タグコントロールの実施
    ⑦差異調整結果の入手・確認
    ⑧講評の実施

終わりに

今回は、リスク対応手続の代表的な手続である「立会」について解説しました。

実地棚卸や立会は在庫がなくならない限り存在する手続なので、今後も実施し続けることになると思います。

近年は、ハンディターミナルや在庫管理システム等が充実していることから、昔に比べて時短になっていると思います。

また、実地棚卸を外注で請け負う業者もあり、これらを使う会社もちらほらあります。

特にアルバイトを雇って営業している会社では、比較的短い勤続期間となりやすい人が実地棚卸をしても効率が悪いことから、外注しているケースがあります。

実際に立会を担当する新人の監査人や実地棚卸をしていただいている方のご参考になれば幸いです。

以下の記事で他の代表的なリスク対応手続である「実査」「確認」について解説してますのでぜひ併せて読んでみてください。

また、以下の記事で「実地棚卸」について、解説してますのでぜひ併せて読んでみてください。

最後までお読みいただきありがとうございました。

それでは!

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